監修:医療法人社団 新光会 不知火クリニック 副院長
産業医科大学 名誉教授
中村 純 先生
うつ病の治療は「十分な休養」と「くすりによる治療」という2つの柱で進められます。また、考え方などを見直す「精神療法」を組みあわせた治療が行われることもあります。
うつ病の患者さんにとって自己管理はなかなか難しいものです。ご家族がコントロールしてあげてください。
うつ病治療の基本
十分な休養
うつ病の治療ではくすりと並行して、十分な休養をとることが大切です。責任感の強い患者さんは、仕事を休んだり、家事をやらないことは悪いことだと思い、なかなか休みをとろうとしません。
しかし、精神的にも身体的にもストレスがかかった状態では、十分な治療効果は期待できません。ときには休職という選択が必要なこともあります。医師が、患者さんに休職が必要だと判断した場合は、どの程度の期間必要か、全体的な見通しについてご家族が医師から説明を受け、「今は休んでほしい」という思いを患者さんに伝えてあげてください。休むことが悪いことだと思っている患者さんにとって、ご家族から「休んでほしい」といってもらえることは、こころの負担を軽くします。
女性の場合、家族の食事、掃除、洗濯、子どものことなど、何かと気になってゆっくり休むことができません。そんなときには、入院というのも1つの選択です。患者さんに抗うつ薬の効果が認められ、症状が安定するまでの間、入院して治療以外に何もしなくてもよい環境をつくるという選択もあります。
くすりによる治療
特に精神科のくすりに抵抗感をもっている方もいるかもしれませんが、うつ病もほかの病気と同じようにくすりによる治療で、からだの中の異常を修正することが必要です。うつ病には医師から処方される「抗うつ薬」という種類のくすりが有効であると考えられています。
精神療法(心理的治療)
うつ病の精神療法は、特に「ぶり返し」を予防するために効果があります。精神療法の中の「認知行動療法」は、うつ病の患者さんによくみられる「否定的な思考パターン」を、専門的な知識と経験をもつ医師との話しあいなどによって客観的に整理し、「より柔軟な思考パターン」にしていこうというものです。周囲の人から考え方についてあれこれいわれても、素直に受け入れられにくいのですが、医師からうつ病を引き起こさないための方法としてアドバイスしてもらえると、患者さんにも受け入れてもらえるかもしれません。
抗うつ薬の種類
現在、うつ病の治療に使用されている抗うつ薬です。
主な抗うつ薬
カテゴリー | 作用 |
---|---|
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) | セロトニンに作用します。 |
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) | セロトニンとノルアドレナリンに作用します。 |
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬) | SSRI、SNRIとは異なった作用によりセロトニンとノルアドレナリンに作用します。 |
三環系抗うつ薬四環系抗うつ薬 | セロトニンとノルアドレナリンに作用します。 |
四環系抗うつ薬 | |
その他(セロトニン遮断再取り込み阻害薬や抗ドパミン薬、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬) | セロトニンやドパミンなどに作用します。 |
浦部昌夫ほか監修:今日の治療薬(2019年版)、南江堂、東京、2019より改変・作表
上記の症状の他にも気になる症状があらわれた場合は、医師または薬剤師にご相談ください。
抗うつ薬の作用
抗うつ薬は、患者さんのうつ病の症状の原因となっている脳の中で働く神経の情報伝達物質のバランスの乱れを調整する作用をもっています。
抗うつ薬により神経の情報伝達物質のバランスが整うことで、患者さんのこころとからだに意欲や活力がスムーズに伝達されるようになります。