監修:名古屋大学大学院 医学系研究科
精神医学・親と子どもの心療学分野 教授
尾崎 紀夫 先生
抗うつ薬には、飲みはじめてすぐには効果があらわれず、しばらく続けていると徐々に症状が改善されてくるという特徴があります。一方、吐き気などの副作用があらわれることもありますが、このような副作用は、一般に飲みはじめからあらわれて、やがておさまってきます。つまり、飲みはじめは、からだをくすりに慣らす期間ともいえます。
患者さんはくすりを飲みはじめてもすぐに効果があらわれないことに焦りを感じたり、副作用を心配したりすることがあるかもしれません。特に、うつ病の患者さんは「否定的なものの見方」になる傾向が強いので、「やはり医療は役に立たない」、「かえって自分は悪くなる」といった考えに陥ることもあります。そんなときには、ご家族が「くすりに関する心配事はきちんと担当の医師に話して、どうするのがよいか相談しようよ」と声をかけてください。そして、診察にはご家族も一緒に付き添うと患者さんも安心して通院できます。
くすりの飲みはじめの変化に注意しましょう。
抗うつ薬は飲みはじめに副作用があらわれることがあります。 現在、うつ病の治療でよく使用されているSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(ノルアドレナリン作動性、特異的セロトニン作動性抗うつ薬)は、古くから使用されている三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬に比べ副作用は少ないといわれていますが、飲みはじめに吐き気、むかつきなどの副作用があらわれることがあります。これは、脳の中にある「吐き気をコントロールする器官」を刺激することで起こるもので、痛み止めのくすりのように胃を荒らすわけではありません。多くの場合、続けていると徐々におさまってきますが、患者さんが不安に思っているようでしたら担当の医師に相談してください。
また、ときにくすりの飲みはじめ(多くは2週間以内)やくすりの増量に伴って、不安、イライラ・ソワソワ、興奮しやすくなる、ちょっとしたことで怒りっぽくなる、パニック状態になるなどの症状があらわれることもあります。気になることがある場合は医師に相談してください。
躁(そう)状態に注意してください。
抗うつ薬の飲みはじめに、まれに患者さんが普段以上に元気になり、夜も眠らなくても調子がよくなり、いつもと違った様子がみられることがあります。また、これまで温厚だった患者さんが、攻撃的になったりして「性格が変わったのか?」と感じさせられることがあります。この理由として、もともと患者さんが単なるうつ病ではなく、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)という病気だった可能性があります。また、このような状態は抗うつ薬の副作用であることもあります。
また、一見するとうつ病のように見え、うつ病と診断されている患者で あっても、実際は双極性障害の経過中にうつ状態となっている可能性もあります。そのため、うつ病の治療ガイドラインにおいて、うつ病と双極性障害の鑑別は重要な点としてあげられています1)。
双極性障害(躁うつ病)が見過ごされている一番の理由として、患者さん本人は「躁状態」のことを、「調子のちょうどよい状態」と思っている場合が多いことがあげられます。つまり、双極性障害(躁うつ病)をきちんと診断するには、患者さんからだけの情報では不十分で、ご家族からの客観的な情報が重要になります。
うつ病と、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害(躁うつ病)は治療方法が異なりますので、「少し様子がおかしいな・・・」と思ったら、気のせいだろうと考えずに医師に相談してください。
1)日本うつ病学会:うつ病治療ガイドライン第2版 医学書院、2017
患者さんの躁状態に気づくチェックポイント
- 最近、急に愉快になった
- 普段よりよく話す
- これまでより、自信に満ちている
- すぐに気が散ったり、注意が集中できていない
- あまり眠っていないようなのに、調子がよいという
- ちょっとしたことでも、イライラしている
1つでもあてはまる項目がある場合は、担当の医師に相談してください。
上記の症状の他にも気になる症状があらわれた場合は、医師または薬剤師にご相談ください。