監修:名古屋大学大学院 医学系研究科
精神医学・親と子どもの心療学分野 教授
尾崎 紀夫 先生
「症状もよくなってきたので、仕事や家庭生活に復帰する準備を少しずつはじめましょう」と医師にいわれると、うつ病が治ったと思い、それまで続けていた治療をやめようと思う患者さんがいます。しかし、うつ病はぶり返しやすい病気であるため、しばらくは同じ量のくすりで、少なくとも半年間は治療を維持していくことが基本とされています。
「復帰する」という大きな変化に対応していくためには、それ以外のことはあまり大きな変化を加えないようにすることが大切なのです。
患者さんの状態は、傷口に例えるとまだ“かさぶた”の状態です。“かさぶた”ができると、血は流れていませんし、痛みもやわらいでいます。しかし、本当の皮膚ではないので、皮膚より弱く、ちょっとしたことで傷がまたできやすく、皮膚より柔軟性に欠けるので、動きもぎこちありません。“かさぶた”は大事にして、“本当の皮膚”ができあがるまで、守ってあげることが必要です。
そのため、生活が軌道にのるまでは、くすりが「傷口の絆創膏である」と考え、今まで通りに医師にしたがってくすりの服用を続けられるようにサポートしてあげてください。
また、故意にくすりをやめるつもりがなくても、仕事や家庭生活への復帰をはじめると朝が忙しくなったり、昼は外に出ることが多くなるため、「くすりは飲んだ?」などと声をかけてあげてください。
ときどき、うつ病治療において、くすりを飲むことの重要性を理解していないご家族が、状態がよくなってきた患者さんがくすりを飲み続けていると、「癖になってやめられなくなるから、もうそろそろやめたほうがいいんじゃない?」とくすりをやめさせようとする場合があります。しかし、うつ病で使用される抗うつ薬には依存性や常習性はありませんので、医師の許可なく服薬を中止させるようなことはしないようにしてください。