監修:医療法人社団 新光会 不知火クリニック 副院長
産業医科大学 名誉教授
中村 純 先生
治療をしている間でもストレスはいろいろとやってきます。治療の効果をさらに上げるために、毎日の生活では、次の点に気をつけましょう。
病気であることを自覚する
うつ病の患者さんは、なかなか自分がうつ病だと認めたくないものです。「ちょっと調子が悪いだけだ」と無理をしてがんばりすぎてしまうことが少なくありません。うつ病は適切な治療が必要な病気です。やる気が出なかったり、これまで普通にできていたことができなくなっているのはうつ病のためです。病気が改善すれば、また以前の生活を取り戻すこともできます。
隠さないで周囲の人に知ってもらう
うつ病に対して世間の理解はいまだ十分とはいえませんが、うつ病を隠すことで、周囲の人に「やる気がない」「なまけている」と非難されてしまうこともあります。また、周囲の目を気にすることでストレスがよけいにたまることも考えられます。家族はもちろん、職場の同僚や友人などにはできるだけ病気であることを話し、治療に向けてサポートを受けるほうがスムーズに治療が進みます。
重大な決断は先のばしに
うつ状態のときには、考え方がマイナス思考になりがちで悲観的になっています。仕事をやめる、離婚するなどの重要なことは、しばらく棚上げにして、すぐに決断をすることはさけましょう。治癒後、「なぜあのとき、あんなことを決断してしまったのだろう」と後悔される患者さんも少なくありません。
思考パターンを変える
マイナス思考のパターンを変えることで、病状を軽くすることができるといわれています。ポイントは (1) 認知 (2) コントロール感覚 (3) コミュニケーションの3つの柱で気持ちの整理を行うというものです。自分が今、何に悩んでいるのか、その解決法は何か、解決法の評価、その中で残ったものを実行する、実行した結果はどうだったのかを紙に書き込み、悲観的な思考パターンから脱け出して、さまざまな観点を意識した柔軟な考え方を身につけるようにしましょう。
ゆとりのある生活を
何でも100%で完璧にしないと気がすまない性格が、うつ病の誘因になることがあります。生活では少し手を抜いて、八分目くらいをこころがけましょう。たくさんのことを一度にしようとしないことも必要です。またこうした完璧主義の人は、治療にも完璧を求めますので、なかなか治療の効果が思うように上がらないと、焦ったり不安を感じて、症状が悪化することもあります。「だいたいこれぐらいでよいのではないか」と、考えに幅をもたせることが大切です。
自分だけで抱え込まない
すべてを自分ひとりで抱え込もうとすると、それだけで大きな負担がかかります。周囲の人を信頼して、任せられることは任せるということも必要です。
食事は好きな物を食べる
食欲減退はうつ病の代表的な症状ですが、治療で食欲が戻ってきたら、好きな物を適度に食べましょう。このとき、野菜や大豆製品などの高タンパク低カロリーなものをバランスよく食べることが大切です。「からだによい食べ物」にはこだわらず、「バランスのとれた食事」をこころがけましょう。
アルコールの量に注意する
アルコールは眠りを浅くし、うつ病を悪化させることもあります。アルコールを飲むと確かに寝つきはよくなりますが、早く目覚めるようになります。つまりアルコールにはうつ病と同様に深睡眠(睡眠段階3、4)を減少させる作用があるので、アルコールがうつ病をつくるような作用があります。またアルコール飲料を飲むと、一時的に気が晴れた感じがしますが、うつ病が治ったわけではありません。抗うつ薬の作用にも影響を与えることがありますので、アルコールと一緒に服用することはさけてください。
楽しみの時間をつくる
うつ病の患者さんには、楽しんだり休む時間をつくることに罪悪感を覚える人もいます。しかし楽しい時間を過ごすことも、うつ病の治療法の1つです。積極的に自分から楽しみをみつけるようにしましょう。例えば落語を聞くなど「笑う習慣・ユーモアを養う時間」をとり入れると、ストレス軽減にもなります。そうした時間をつくり出すために計画表をつくったり、楽しかったことを日記やノートに書くこともよいでしょう。こころが沈んだときにこうしたものを読み返して、楽しい時間がつくれたことを思い出し、自信をもつことにもつながります。
まずは医師に相談してください
うつ病のサインに気づいたら、1日も早く医師に相談してみましょう。治療には少し時間がかかることもありますが、ゆっくり休養をとり、くすりによる治療で日常生活の支障も軽くなってきます。また、ご家族や周りの方に付き添ってもらい、一緒に病院へ受診することでうつ病への理解が得られ、治療がスムーズに進みやすくなります。