監修:医療法人社団 新光会 不知火クリニック 副院長
産業医科大学 名誉教授
中村 純 先生
「うつ病はなぜ起こるのか?」はっきりした原因はまだよくわかっていませんが、脳で働く神経の伝達物質の働きが悪くなるのと同時に、ストレスやからだの病気、環境の変化など、さまざまな要因が重なって発病すると考えられています。大切なことは、うつ病はただ1つの原因のみで発病するのではないということです。
過度のストレスがきっかけになることも
うつ病は、何らかの過度なストレスが引き金になって起こることもあると考えられています。さまざまなストレスのうちで特に多いのは「人間関係からくるストレス」と「環境の変化からくるストレス」です。例えば「身近な人の死」や「リストラ」などの悲しい出来事だけではなく、「昇進」や「結婚」といった嬉しい出来事や環境の変化から起こることもあります。
仕事に関すること | 昇進、降格、失業、仕事の失敗、定年 |
---|---|
健康に関すること | 月経、事故、からだの病気 |
家族に関すること | 妊娠、出産、子どもの就職・結婚、家庭内の不和・離婚 |
お金に関すること | 貧困、税金問題、相続問題 |
状況の変化 | 旅行、引っ越し、転勤 |
喪失体験 | 近親者との死別・離別、病気 |
*昇進や妊娠など喜ばしい出来事も新しい環境への適応障害、以前の環境に対しては喪失体験とも解釈される。
うつ病になりやすいタイプ
うつ病になりやすいタイプとして、まじめで責任感が強く、人あたりもよく、周囲の評価も高い人が多いということがいわれています。
このようなタイプの人は自分の許容量を超えてがんばりすぎたり、ストレスをため込んでしまうため、こころのバランスを崩してしまいやすいようです。
すべてに完璧を求めるのではなく、物事に優先順位をつけてやっていくようにするなど、考え方を変えていくこともうつ病になりにくくするためには重要です。
しかし自分の性格を変えるのはとても大変なことです。医師に相談し、治療を受けることのメリットの1つには、このような考え方に対する指導やアドバイスを受けられることにもあるのです。
循環気質 | 元気な躁状態と抑うつ状態を繰り返す双極性うつ病になりやすいタイプで、社交的、善良、親切で親しみやすい反面、激しやすいという面をもっています。 |
---|---|
執着気質 | 義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、正直、凝り性などの特徴があります。仕事の質は高いのですが、量がこなせません。仕事を一生懸命完成さるために軽い興奮状態が続いたあと、ガクッときて、抑うつ状態に陥りやすいタイプです。また二者択一的で白か黒か、ゼロか100かという結果を決めつけたがり、優先順位をつけられないタイプでもあります。 |
メランコリー親和型気質 | 常識を重んじ、常に他人に配慮を忘れず、円満な関係を保とうとし、自己の性格だけでなく、他との関係も重視するタイプです。そのため他人の評価が大変気になり、いったん何か問題が起きると、悲観的になって、すべて自分の責任だと考えるタイプでもあります。 |
うつ病は女性と高齢者にも起こりやすい1)
データによると男性よりも女性のほうがうつ病になりやすいとされていますが、これは女性のほうが受診する患者さんの数が多いことに加え、出産や月経など女性特有のからだの特徴や生活で起こりうるさまざまな出来事なども理由になっているようです。
さらに、高齢者がうつ病になりやすいのは、配偶者との死別や、社会的孤立など、環境的にうつ病になりやすい要因がたくさんあるためです。
1)川上 憲人 :“ 3 気分障害の疫学 ”精神科臨床ニューアプローチ 2 気分障害 上島国利編 第1版 メジカルビュー社 : 16,2007
うつ病発症のしくみ(病態)
うつ病の原因を調べる最近の研究では、脳の神経細胞における情報の伝わり方に異変が生じているということが報告されています。私たちは生活の中で、脳から「食べる」、「寝る」などの基本的な動作の命令をからだに伝えていますが、「意欲」や「記憶」などの感情を伝えたり、知的な命令もしています。 このとき神経の細胞から細胞へ情報を伝えているのが「神経伝達物質」と呼ばれるものです。
この中のセロトニンとノルアドレナリンは、気分や意欲、記憶などの人の感情にかかわる情報の伝わり方をコントロールし、こころとからだの働きを活性化していると考えられています。
うつ病では、何らかの原因で神経の細胞と細胞の間にあるセロトニンとノルアドレナリンの量が減って、情報がうまく伝わらないために、さまざまな症状があらわれると考えられています。