監修:名古屋大学大学院 医学系研究科
精神医学・親と子どもの心療学分野 教授
尾崎 紀夫 先生
うつ病の治療を進めるうえでとても難しいのが、「変化が目にみえない」ということです。ケガをしたときのように傷口がみえたり、糖尿病や高血圧のように血糖値や血圧という数値として変化が目にみえれば、「今はまだ完全に治っていないから、きちんと治療を続けよう」と思えるのですが、うつ病の場合は、変化が目にみえないため、「先生は治療を続けるようにいっているけど、最近は調子がいいから、もう大丈夫だろう・・・」と自己判断でくすりを飲むことをやめてしまうことがあります。
しかし、回復期に入った状態は、傷口に例えるとまだ“かさぶた”がようやくできた時期です。“かさぶた”ができると、血は流れていませんし、痛みもやわらいでいます。しかし、本当の皮膚ではないので、皮膚より弱く、ちょっとしたことで傷がまたできやすく、皮膚より柔軟性に欠けるので、動きもぎこちありません。“かさぶた”は大事にして、“本当の皮膚”ができあがるまで、守ることが必要です。そのため、生活が軌道に乗るまでは、くすりが「傷口の絆創膏である」と考え、今まで通りに担当の医師にしたがってくすりを飲み続けましょう。
また、復帰を目指して、ついひとりでがんばりすぎてしまうと、せっかくふさがってきた“かさぶた”がとれて傷口が開いてしまうことがあります。1回目の傷よりも、同じ場所を2回傷つけたときのほうが治りは悪くなり、何回か繰り返しているうちに跡が残り、もと通りに治らなくなってしまうこともあります。
うつ病もこれと同じように、“かさぶた”の状態で無理をしたり、治療をやめてしまい、再発を繰り返していると、ちょっとしたストレスや問題でも状態が悪化して、治りにくくなってしまうことがあります。
そのため、症状がやわらいで調子がよい時期も、周りと相談しながら少しペースをおさえ気味に進めていくことと、この時期も治療を続けることが重要です。